LIGO科学コラボレーションVIRGOコラボレーションは、ブラックホール連星の合体を検出したと発表しました。検出は2017年8月14日のことで、それぞれ太陽の数十倍の質量をもつブラックホール2つが合体する現象が観測されたのは4回目のことです。今回、2つのLIGO検出器に加え、アドバンスドVIRGOも初めて観測に成功し、この現象が起こった方向を以前よりも大幅に精度良く決めることができました。この結果は、検出器が増えることで、重力波源の位置をピンポイントで測定でき、重力波以外の天文学的観測の可能性が広がることを明瞭に示しています。
国立天文台重力波プロジェクト室長で、フランス国立科学研究センター・アヌシー素粒子研究所でVIRGOチームの一員を務め、そして今回の結果を伝えるアメリカ物理学会が刊行する物理学雑誌「フィジカル・レビュー・レター」に受理された論文の著者の一人である、ラファエレ・フラミニオ教授は、次のように説明しています。
「この方向決めは、三脚ととても似ています。モノをある向きにしっかり支えるには、3本の足が必須です。国際協力による重力波検出は、ついに3本目の脚を得ました。2015年に始まったアドバンスドLIGOの2つの検出器に加え、アドバンスドVIRGOが今年8月に科学的データ取得を開始したのです。
2017年8月14日、データ取得を開始してわずか2週間で、アドバンスドLIGOの2つの検出器とアドバンスドVIRGOの検出器が同時に連星ブラックホールの合体を検出しました。合体は18億光年かなたで起きたものですが、その信号が届いて検出されたのは完全に同時ではありませんでした。米国ルイジアナ州リビングストンに置かれたLIGO検出器に最初に届き、ワシントン州ハンフォードのLIGOサイトにはその8ミリ秒後に届きました。そして、イタリア・ピサ市の近くにあるVIRGOサイトでは、リビングストンの14ミリ秒後に重力波が検出されました。この到達時刻のわずかな違いから、重力波の源の位置を、以前に比べてずっと正確に求めることができたのです。2つのLIGO検出器だけでは、位置の誤差は1000平方度、つまり満月を何千個も敷き詰められる範囲内で起きたとしかわかりませんでした。そこにアドバンスドVIRGO検出器のデータを加えることで、位置を100平方度以内で決定できるようになったのです。このことから、観測網にさらに検出器を加えることで、天体の位置をもっと正確に知ることができ、他の手法、すなわち目に見える光や電波などによる天文学的な観測を可能にする手助けとなることがわかります。
図:重力波源の位置決定。黄色い領域はLIGOの2検出器のデータのみを用いて求められた天体位置。緑に塗られた領域はVIRGOのデータを加えた検出直後のオンライン解析によるもので、灰色は事後解析でより改善されたもの。(クレジット:LIGO-VIRGO共同実験)
しかし、これだけではありません。1世紀前にアルバート・アインシュタインが築きあげた重力理論によると、重力波は時空構造の揺れです。この効果は物体間の距離を変化させます。アインシュタインによるとこの揺れには2つの種類(偏波)があります。LIGOの2つの検出器では、その偏波の片方にしか感度がありません。VIRGOを加えることで、もうひとつの偏波を感じることができるようになったのです。現在の検出器の感度による限界内ではありますが、アインシュタインの理論が測定と見事に合致していると示すことに科学者たちは成功したのです。
この結果は、さらなる検出器を地上の別の場所で別の向きに設置して観測網に加えることがいかに重要かを、確かめることとなりました。日本のKAGRA検出器は現在,岐阜県飛騨市にある神岡鉱山で設置作業の最中ですが、近い将来この観測網に加わる計画となっています。そうなったら、測定はさらに正確になり、重力波天文学の発展に大いに貢献するでしょう。見えない宇宙を探訪し、アインシュタインの時空の記述の限界を知ることになるかもしれません。
LIGOプレスリリース:https://www.ligo.caltech.edu/news/ligo20170927
VIRGOプレスリリース:http://www.virgo-gw.eu/docs/GW170814/GW170814_press_release_en.pdf