2015年9月14日、アメリカの重力波望遠鏡LIGOで重力波が直接検出されました。検出されたのは、それまで最有力候補と考えられていた中性子星連星の合体ではなく、太陽の30倍程の重さのブラックホール連星の合体でした。 ブラックホール連星の合体からは、付随する電磁波の放射は残念ながらあまり期待することができません。しかし、これから見つかってくるであろうほかの事象で、付随する電磁波などの放射を観測することができれば、重力波の観測データだけでなく複数の検出器のデータを用いることで天体の性質をより深く理解することができるでしょう。
重力波天体の位置推定
重力波の望遠鏡は、地面の下を含めてほとんど全ての方向に感度がある一方で、どの方向から重力波が来たのかは実はあまりよく分かりません。LIGOの初検出でも、約600平方度という、普通の光学望遠鏡の視野から考えるとそこから探し出すことは不可能に思える程広い範囲でしか重力波が来た方向を推定することができませんでした。しかし、重力波望遠鏡の数が増え、LIGOに加えてイタリアのVIRGO、日本のKAGRAなど複数の望遠鏡のデータをつかった同時解析ができるようになれば、この状況は大きく変わり、推定領域を大幅に小さくすることができるようになります。そのため、初検出後の現在も、KAGRAの本格稼働はとても重要です。推進室では、データ解析グループと協力しながら、KAGRAが稼働することで重力波源天体の位置推定誤差をどれくらい低減できるかを調べています。
中性子星連星の合体と電磁波観測
初検初検出前に主な重力波源と考えられていたのは中性子星連星の合体です。この天体現象は、ガンマ線などの電磁波でも観測されているのではないかと考えられていて(SGRB, kilonova)、重力波を用いたマルチメッセンジャー(多波長・多粒子)観測の有力な候補となっています。この現象に付随する電磁波の放射についてはさまざまな研究がされ行われていますが、国立天文台の田中さんらの研究では、暗くて赤い光が見えるのではないか、と考えられています。国立天文台のすばる望遠鏡につけられた広視野検出器Hyper Suprime-Cam (HSC)は、大口径ゆえの高い感度と主焦点での広視野を誇り、上に述べたように推定位置範囲の広い重力波天体からの現象を捉えるためには大変有力な検出器です。推進室では、重力波以外の観測装置とどのような連携が可能かも検討しています。
超新星爆発とニュートリノ
超新星も重力波源候補のひとつですが、重力波で見える範囲は、KAGRAと同じ神岡の地下にあるスーパーカミオカンデと同じくらい(われわれの銀河と同じくらいかそれよりちょっと遠くまで)と予想されています。もし重力波が検出できるほどの近傍で超新星爆発が起これば、ニュートリノはじめ他のほぼ全ての天体観測装置で観測をすることができるでしょう。時系列では、最初にニュートリノ、次に重力波、それから(親星によりますが数分から1日くらいで)電磁波が見えます。これら複数の手段で解析を行うことで、超新星爆発のメカニズムの詳細がより鮮明になると期待されています。そのため、推進室では、ニュートリノやガンマ線のアラートシステムを受信し、同時解析をする準備を進めています。